はじめに

呼吸は無意識で行っていると思われていますが深呼吸などは自力で行うなど意識下でも行うことが出来ます。

もう1つ呼吸数やその呼吸の深さなどを調節する働きを持つものとして「情動」があります。苦手な物(例えば蛇など)をみた時に心臓がドキドキして、呼吸が荒くなることなどはありませんか?

今回はこのような「情動」が呼吸に与える影響について解説をしたいと思います。

呼吸は無意識的にも意識的にも行われる

呼吸は体内に酸素を取り込み、二酸化炭素を排出する働きをしていて体にとって必要不可欠なものです。

普段、自分が呼吸をしていることを意識することはあまりないと思います。しかしながら人間は意識して深呼吸をしたり、ため息をついたりすることができる生き物です。この無意識で行う呼吸(不随意呼吸)意識して行う呼吸(随意呼吸)と2つの働きをしますが、これらは脳などの神経系によってコントールされています。

この無意識で行う不随意呼吸は、体にエネルギーとして必要な酸素を取り込むための代謝性呼吸として捉えられており、意識して行う呼吸は発声を行う際に使われる行動性呼吸ともされています。

この代謝性呼吸と行動性呼吸の関係性でイメージをしやすいのは、一気に早口で止めどもなく話をした後に、息が上がったり苦しくなるような時のことでしょうか。

発声をする時は最初に息を吸い込む必要があり、その吸い込んだ息を吐き出す必要があります。(この時、発声という動作に注意が向けられていますがこの一連の呼吸動作はほぼ無意識で行われているかもしれません。)話終わった後に息が苦しくなるということはこの呼吸は代謝性の呼吸として行われていないことになります。そのため息苦しくなり話終わった後からまた不随意的な代謝性の呼吸に変え酸素を取り込もうとするのです。

慢性の呼吸器疾患がある方など、代謝性の呼吸で精一杯だという方にとっては発声に必要な行動性呼吸が難しくなるということもイメージがつきやすいと思います。

そしてこれらの2つの呼吸を調節するの機能は脳にあります。

呼吸を調節するのは脳

代謝性呼吸を制御する場所は「脳幹」

生命の維持に必要な代謝性呼吸をコントロールするのは脳幹にある呼吸ニューロンによって行われています。

この呼吸ニューロンは常に体の中の二酸化炭素濃度をモニタリングしていて、体の中に異常があればすぐに対処をするように働きかけます。

この脳幹により制御されている代謝性呼吸の場合、体内での二酸化炭素濃度が高くなると呼吸リズムを早くさせる調節を行います。

行動性呼吸を制御する場所は「大脳皮質」

深呼吸や発声など意識的に呼吸リズムを変えることができるのは大脳皮質によるためです。

大脳皮質にある1次運動野(手足などの運動を指令する場所)に電気刺激を加えると対側の肋間筋が収縮したという報告があります。皮質脊髄路を切断するとこの反応は見られなくなるのですが、代謝性呼吸は持続することが分かっています。

つまり行動性呼吸は大脳皮質でコントロールされ、代謝性呼吸とは呼吸の調節経路が異なるということです。

しかしながら全く独立のものではなく、大脳皮質からは延髄の呼吸中枢にも神経経路があるためお互いに影響をしあっていることが分かっています。

その影響しあうものの要因に「情動」があります。

呼吸を調整する第3の要因「情動」

呼吸は何もしていない時などの安静時はリズム通りゆっくりと行われていますが、不安や恐怖感じた時、また何かに興奮した時は呼吸が自然と早くなります。

不安や恐怖を感じたからと言って呼吸をわざと早くする人はいないはずです。勝手に、つまりは不随意的に呼吸数が上がると思います。

反対に気持ちを落ち着かせるため、リラックスさせるためにわざと深呼吸を行うこともあるでしょう。

この不安や恐怖などによって変動する呼吸は「情動性呼吸」とされており、その主な中枢は「大脳辺縁系」です。この情動性呼吸は代謝性呼吸と行動性呼吸により制御されていると言われています。この3つ目の呼吸調節も含めて人間の呼吸は周辺環境に合わせて非常に複雑にコントロールされているのです。

情動性呼吸に関係するのは「扁桃体」と「梨状葉」

この情動性呼吸に関係するのが大脳辺縁系の中にある「扁桃体」と呼ばれる部位です。

扁桃体とは不安や恐怖などの感情の中枢であり、大脳辺縁系に含まれます。

また扁桃体には横隔神経と同期する活動があることも明らかになっています。横隔神経の活動と扁桃体の活動には相関関係があり非常にリンクしていることが分かっています。

しかしながらどうもこの扁桃体だけでは説明がつかないとされています。情動による呼吸の調節の出発点は梨状葉(嗅覚の中枢)にあるとされていて、大脳辺縁系での呼吸性リズムはまず梨状葉から始まり、次いで扁桃体に伝わることで生成されます。また嗅覚によって生成された情動が呼吸を変化させるということは、匂い/臭いなども呼吸リズムを変化させるということです。

不安などの情動と呼吸の関係

感情・情動には不安や恐怖などのネガティブなものと、楽しい、嬉しいなどのポジティブなものとありますがこれらは身体の変化を伴いながら出現することが多いです。

人間だけでなく動物などは危険を感じた時(例えば、草食動物の場合、肉食動物が目の前に現れた時など)にすぐに行動をとることができるように自律神経、特に交感神経を働かせることで身体を変化させます。

呼吸に関しても覚醒レベルの度合いによって呼吸数が増大が起こるとされています。嫌な音を聞いた時や嫌な物を見た時などの聴覚・視覚情報によっても呼吸数は変わります。

また情動によって呼吸が変化するのは何かを体験した後に出現するだけでなく、不安や恐怖が予期できる場合にも同様に呼吸が変化することがあります。

この予期不安と呼吸の関係性において研究がいくつかあり、予期不安がある時は呼吸数が増大するということが明らかにされています。

想像してみると分かりやすいと思います。「お化け屋敷」に入った時、いつどこからお化けが出てくるか分からない状況(予期不安)で心臓がドキドキ、呼吸が早くなることがあると思います。

その他、不安や緊張などで過換気となり血中の二酸化炭素分圧を低下させる過換気症候群の場合、不安や緊張のレベルが高い人は健常者と比べて呼吸終末二酸化炭濃度が低く、呼吸数も有意に高いという研究報告もあることから情動は呼吸に対して多くの影響を及ぼします。

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さいごに

呼吸リズムを生成しているメカニズムは非常に複雑であり、生きるために必要な代謝性の呼吸だけでなく情動も関係していることが明らかになっています。

呼吸回数、呼吸の深さなどは不安や緊張によって容易に変えられてしまいますがこれはネガティブな身体変化ではなく体に危機を知らせるため、またその危機に対処ができるよう変化させている結果であることからポジティブな変化と捉えることができます。

また呼吸は随意的に変化させることができるものでもあることから自分で呼吸リズムを整えることで情動もコントロールすることができる、つまりは呼吸で不安や緊張を和らげることができることも明らかになっています。

日本語には「息」にまつわる慣用句が多くあります。「息を飲む:恐れや緊張で呼吸を一瞬止める」「息をつく:ほっとする」「息があう:物事を行う調子や気分がぴったり合う」などなど。どれも感情と結びつけられているものだということに気づきましたでしょうか。このような情動と呼吸の神経回路について知ってか知らずか分かりませんが日本語というのは上手く表現したものだなと関心させられます。

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