はじめに

妊娠と授乳は女性の骨格代謝を変化させることが知られている。女性は妊娠中に栄養を特にカルシウムを児に供給し、出生後も授乳の際にカルシウムが幼児に供給されることになる。そのため骨粗鬆症リスクが高くなる可能性があることから妊娠後骨粗鬆症というものがある。今回はこれについてふれていきたい。

妊娠後骨粗鬆症(PAO)とは

妊娠後骨粗鬆症(PAO)は、初産婦に多く、妊娠後期・産褥期の腰背部痛を訴え、多発脊椎圧迫骨折を主病変とするまれな疾患である。

PAOのリスク因子として小児期の重症な歯科疾患、思春期の前後の運動が少ない、小児期の小動物の飼育がないことなどがあげられている。

しかしながら妊娠後骨粗鬆症はまだ不明な点が多い疾患である。PAOの多くはそれまで全く健康と思われていた女性に妊娠・授乳をきっかけに発症するため、母親のQOLを低下させることは間違いない。

我が国におけるPAOの頻度についての報告はほとんどないが、以下のような調査方向があるので紹介する。

予備的調査として約100万症例のDPCデータを用いた産科入院後2年以内の骨折症例の臨床疫学的検討では、妊娠関連骨折が0.048%、そのうち脆弱性骨折好発部位は0.016%、椎体骨折に限ると0.0069%と推計される。(鳥羽ら,2017)

上記報告からも分かるように症例数はかなり少ない。更には非常にまれなケースでもあるため本人がまたは医療者が気づいていないケースなどもあると思われる。

腰が痛いなーと感じてもすぐに病院に診察に行く人は少ないだろう。そのためもっと多くの方々が実際には骨折をしてしまっているのかもしれない。

妊娠中に骨密度は低下するか?

詳細なことははっきりとまだわかっていないことも多いようであるが、現時点でわかっていること骨密度が低下する可能性があるということである。

妊娠中には骨形成は低下、骨吸収は亢進するアンカップリング状態の骨代謝が起こっており、妊娠中期に骨吸収の亢進した者ほど出産時には骨形成が亢進し、高代謝回転となってている(米山ら,2000)としている。

妊娠中の骨密度の低下についてはDXA法で調査した結果、脊椎骨で3.3%の減少があったとしている(Drinkwater BLら,1991)ものもある。

なぜこのようなことが生じるのか?

これにはカルシウムが関係しているようだ。妊娠中に胎児に必要とされるカルシウムは総量で25-30gになるとされている。このカルシウムの需要に対して妊娠中には初期よりカルシウムの腸管吸収が亢進することが知られている。

しかしながら、胎児が必要とするカルシウムの全てが母親から供給されたとしても母親の全ての骨に含まれるカルシウムの2.5%にすぎないとされており、消化管からの供給も含めると実際の骨からの供給は更に少ないことが予想される。

妊娠中に母体から児に対して供給されるカルシウムがどの程度影響するかはまだ不明な点も多いが、全く影響がないということでもないようだ。

産後/授乳による影響は?

これについては授乳による影響はあると思われるが、全員がそうではない。元からの骨密度が低い方は特に要注意であるというのが現時点でわかっていることのようである。

授乳中のカルシウム消費量は6ヶ月間の授乳に対して40~63g(約280~400mg/日)にもなり、これは妊娠中のカルシウム消費の約2倍にもあると言われている。これにはPTHrP増加とエストラジオール減少が骨吸収を増加させるためと言われている。

やはり授乳中ものカルシウム供給源は母親の骨組織であるため、母親の骨組織への影響が危惧される。

長期間の授乳者(平均10.7ヶ月)は短期間(平均2.8ヶ月)の場合に比べて橈骨遠位部の骨密度が有意に低いという報告もある(Wardlaw GMら,1986)。

また6ヶ月間の授乳後には出産後2日と比べて、また人工栄養の母親に比べて、いずれも腰椎骨の骨量減少がみられた(Hayslip CCら,1989)としている。

また長期授乳者は骨密度は低い、骨密度の低い者が長期授乳すると元に戻りにくいという報告もある。

これを示す最近の研究では、妊娠後期から授乳期に骨折した15名の妊娠後骨粗鬆症群において産褥1年以上経過した状態で骨芽細胞機能が低下し、骨リモデリングの低下している可能性があることを示している。(Cohen Aら,2019

慶應義塾大学からの報告では、骨粗鬆症の原因となる代謝性疾患や内分泌学的疾患への罹患を認めないにも関わらず、高齢者の骨粗鬆症患者に見られるのと同等の骨密度減少を認めたと報告している。これらの患者は骨折を起こすまで全て完全母乳で授乳しており、いずれも出産後3ヶ月以内に骨折を起こしていたとしている。

ここまでであれば、出産後の骨折の原因が授乳であると思われるかもしれないが、実は異なるようである。

同研究では、出産目的に同大学に通院する79人を対象に追加調査を行なっている。79人中34人は完全母乳で授乳していたが、骨密度の低下はみれなかった。34人をそれ以外の完全ミルク群または母乳・ミルク混合群と比較した結果も骨密度に有意差はなかったとしている。またこの完全母乳の34人は先ほどの骨折をしていた完全母乳の11人と比較しても骨密度は有意に高かった。

一方、完全母乳とミルクを用いた授乳の2群で比較した結果、完全母乳群では骨吸収マーカーが有意に高く、古い骨を破壊する機能の活性化が有意に高いことが示された。Miyamoto Tら, 2019

これらのことから出産後の骨折は授乳に直接的な原因があるのではなく、出産前の骨密度の低下が主な原因ではないかとしている。

骨折が生じたケースでは既に骨密度が顕著に低下した状況にあった産婦が授乳を行うことで、骨吸収機能の亢進・骨代謝状態の変化を招き、そこへ赤ちゃんを抱き抱えるなどの物理的・身体的な負荷が加わったことで骨折に至ったのではないかと結論づけた。

妊娠前の検査で骨密度の低下が判明した際には、専門医による診察・アドバイスを受けることが必要としている。出産後の骨折を防ぎ、骨密度を強固にする対策が重要であるとした。

一体どれだけの人が妊娠前または妊娠中から自分の骨密度を意識することがあるだろうか?おそらくほとんどの人は骨粗鬆症といえば高齢者をイメージすることが多いのではないか。そのため、今後は妊娠を迎える女性や出産後の女性にも骨密度の定期的な検査を受けることを推奨すべきなのかもしれない。

母親の骨密度が児与える影響は?

妊娠前半期や出産時の母親の骨密度と児の出生体重、出生身長との間には有意な正の相関があるとされている。

つまり、母親の骨密度は胎児の成長に影響を与える可能性が大きいということである。

これからのことから妊娠を考えている女性、つまり早い段階から骨粗鬆症の予防のための介入が必要である可能性が高い。

さいごに

・妊娠中から骨密度が低下する可能性が高い。

・母親の骨保護のためだけでなく、胎児の発育への影響もあることから骨密度を高く保持することが望ましい。

・骨密度のピークは18歳前後と言われているため、妊娠前から骨密度を高めるようにすることが重要である。

・「骨粗鬆症=高齢者の病気」ではないことを理解していただきたい。

【関連記事①】

女性特有の閉経後骨粗鬆症についてはこちら

https://onehealthlonglife.com/2020/03/05/woman-osteoporosis/

【関連記事②】

骨粗鬆症の運動療法のエビデンス-専門家向け-

https://onehealthlonglife.com/2019/12/16/osteoporosis-exercise-evidence/

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