はじめに

COVID-19の感染拡大により多くの企業が導入をせざるを得ないことになり自宅で仕事をする「リモートワーク」に注目が集まっています。

働き方改革などで元から注目はされていましたが、今一つ導入が進まない状況が続いていました。しかしながら今回の一件で多くの方がこのリモートワークを直に体験することになったのではないかと思います。

ただし、医療・介護現場ではどうでしょうか。医療・介護現場ではリモートワークは現在のところ難しい状況にあります。しかしながらICTなどの発展により医療・介護現場でもリモートワークが可能な未来が訪れるかもしれません。いや訪れるべきだと私は考えています。

今回は、今の医療・介護現場での現状を振り返るとともに、リモートワークを含めた医療介護現場における働き方の未来について考えたいと思います。

今すぐ医療介護現場でリモートワークは可能か?

これは、はっきり言って難しいでしょう。業務のほとんどを口頭でのコミュニケーションによって行ってきましたし、介護などはリフトなどが導入されている施設はほどんとまだなく、介助にしても結局人手が必要な状況です。

医師は患者に対して治療内容の説明や同意書への署名、また治療の経過観察のための診察などを行うため直接患者に会う必要があります。看護師の場合、点滴を挿入・交換する、排泄の介助、送迎や日々の身体観察などが必要です。薬剤師の場合、服薬内容の説明や指導、またその管理方法について直接説明する必要があります。理学療法士などのリハビリテーション関連の職種においては徒手的なマッサージや筋力増強訓練、歩行介助など直接患者に触れて行うことが多い状況です。

これらの業務を急に明日から自宅などの別の場所から行ってくださいという訳には行きません。そのため医療・介護現場の仕事の特性上リモートワークで実施することができる可能性は一般の企業に比べると難しいと言えると思います。

ほとんどの人が自宅にPCやタブレットなどを持っている時代ですが、患者さんの病室にはインターネットに接続が出来るようなPC、タブレットなどはありません。TVが1台あるのみです。あるとすればナースステーションなどにカルテ記入用のPCがある程度でしょう。そのため患者の身体チェックを行うにしても心電図やSpO2モニターなどしか一般の病棟にはありません。ICUなどの集中治療室であればもっと多くの細かな全身状態がモニターが確認することができますが、それ以外の病棟ではなかなか現状難しいでしょう。

また患者が日々の体調などを入力するためのPCやタブレットがあればもっと問診なども病室に訪れずに行うことができるでしょうが、その辺りのインフラの整備は全く進んでいません。そのため現状、問診でさえリモートワークは実施困難な病院、介護施設がほとんどであると言えるでしょう。

またこれらの体制を構築しようと思うとかなりの初期投資がかかります。ネット環境(セキュリティ強化)、タブレットやその他医療機器の充実などを行うと百万円単位で済む話ではなくなります。

赤字経営の続く病院が多い昨今で、これらの体制のためにこれだけのお金を使うことは難しいこともあり、なかなか今すぐに病院で始めるということは難しいと言わざるを得ない状況にあると思います。ましてや電子カルテも導入していない病院・施設・クリニックもある現状です。

医療介護現場でもリモートワークは整備すべきか?

私は医療介護現場でもリモートワークは整備すべきだと思っています。ただし全てをリモートで行うことはできないと思いますし、またそうすべきではないとも思っています。

整備をすべきだと感じる理由

今回のCOVID-19感染拡大の影響により先の業務内容による特性などから通常の業務を続けることの難しさを痛感することになりました。院内でCOVID-19感染者を受け入れるとその患者に対して一定数の医師と看護師が対応に追われることになります。他のスタッフは出勤の調整、業務の分担など大変な状況になりました。また院内感染が起こり、看護師にも感染が拡大するとその看護師は一定期間出勤できないことになってしまいます。またその感染者と濃厚接触であった者も同様です。ただでさえ人手不足な状況で業務を行っているにも関わらずこの様なことになってしまってはこれまでの医療・介護を維持することが困難です。

これまで医療現場では、多くの細菌・ウィルスと戦ってきているのでCOVID-19だけが特別という訳ではありません。そのため医療現場では感染対策マニュアルなどを普段から整備している病院がほとんどです。

しかしながらこれまでの医療体制やマニュアルだけでは対応が難しいということも明らかになったのも事実です。

もちろん現場の医療スタッフの感染対策指導を徹底化するようなマニュアルの整備などは必要でしょう。しかしながらこれだけでは十分ではないと感じます。

私たち医療職員も一般人ですのでスーパーに行き買い物をしたり、保育園の送り迎えに出たりと社会で生活をしています。そのため医療従事者もどこで感染するかは分かりません。仮に病院外で感染した医療従事者がかなりの数が出てしまった場合、現在の医療体制では目の前の医療を維持することは困難です。今回の様な感染症拡大や大規模災害が発生した際などには特に問題です。

そのため今後はそうならないためにも、現在のような医療従事者が現場にありきの医療・介護体制を変える試みが必要だと思います。

最近では遠隔診療が認められるようになるなど患者とは距離が離れていても診療が可能な時代がきています。2018年3月に作成された「オンライン診療の適切な実施に関する指針」では、医師がどこで遠隔診療を行うかに関する考え方として「必ずしも医療機関においてオンライン診療を行う必要はない」という記載されています。その為、これを十分に行うことができるようになるば医療全体の業務の中で一部にすぎませんがリモートワークが可能になるかもしれません。

新たな感染症に人類が立ち向かう必要性が出た場合(そのようなことがないことを祈ります)にきちんと医療を守れるようにするためにも人が直接行う業務とICTを使用するなどモニタリングを行ったり、遠隔でリモートワークができるよう直接的ではない関わり方も必要になるのではないかと思います。

全てをリモートワークでは不可能だと感じる理由

医療介護現場では身体的側面の治療が最優先で行われます。血圧や心拍数、心電図、その他の血液検査結果、レントゲン検査結果などは数値で表すことができます。これらの情報はPC上の電子カルテ内に入っているので病室に行くことなく病態の確認が可能な為、身体的側面に対する治療はこれらのデータを見ればある程度は可能かもしれません。

ナースステーションという離れた場所で患者の状態を確認することができるということはある意味リモートワークなのかもしれません。

しかしながら、これらの情報を閲覧する場所は限られると思います。病院内のPCから閲覧するのであれば院内の厳重なセキュリティ環境下ですので問題はありません。しかしながらこれが外部、例えば自宅のPCからカルテの内容を閲覧することはセキュリティの問題からハードルが高いと言わざるを得ません。

そのため全ての業務をリモートワークで行うことは難しいと思われます。

また医療・介護現場で大事にされているのは対面でのコミュニケーションです。患者の声の大きさ、トーンなどのバーバル的なコミュニケーションや表情、視線、身振り手振り、呼吸リズムやその呼吸様式などのノンバーバル的なコミュニケーションを駆使しながら日々業務にあたっています。現場での肌感のような形で自然と患者の様子を観察しているのです。

これらはタブレットなどの映像情報などで確認することで病室に行くことなく代用が可能かもしれません。しかしながらタブレットなどの映像に映る患者は顔だけであったりして身体のごく一部に限られてしまいます。もっと患者の全体の様子などをみることができるようなシステムがあれば良いでしょう。例えば部屋全体と患者を直接映し出すことができるような監視カメラのような物が備え付けてあり、患者と医師などの医療従事者はマイクを通してコミュニケーションをとるという様な方法です。これであれば解決ができそうですが、病室で休んでいる患者さんにもプライバシーがありますので、勝手にカメラのスイッチを入れて監視することなどは実際には難しいでしょう。まずは「問診をさせていただきます」とマイクを通して患者に声をかけてからカメラにスイッチを入れるなどの配慮が必要だと思います。

ではロボットなどを使用すれば良いのでしょうか?

ロボットやAIの技術的発展によりコミュニケーション技術も飛躍的に向上しています。最近ではイオンなどのショッピングモールなどでpepperくんを見かけるようになりました。このような会話が可能なロボット、また食事の配膳や服薬管理を行うことができるロボットを導入すれば看護師の業務負担も大幅に軽減されることでしょう。

しかしながらここにも私は1つ落とし穴があるように思います。それは人の温もりです。病院では病気や治療に大変苦労される患者さんが非常に多いです。そのような苦しい時、医師や看護師、その他の医療従事者からの温かい一言や表情などは患者さんにとって前向きに頑張ろうとする力になると私は思います。

今回のCOVID-19の感染拡大によって外出自粛、自宅謹慎、リモートワークの推奨が行われるなどして、人と人が接触する機会がめっきり減ってしまいました。するとどうでしょうか、人はどうにかして誰かと繋がりたい、励ましあいたいという思いが強くなり、YouTube上で歌を歌ったり、踊ったりする動画を見せあったり、その他ではリモート飲み会などのリモート○◯などが流行りだしました。

結局のところ、人は一人では生きていけないということが証明されたのではないかと思います。「心のどこかで誰かと繋がっていたい」これが人の本性です。

今回のような感染などの問題が発生した時にも少ない人員で今の医療を守ることができるようになる体制づくりが必要です。しかしながら全てをICTなどの技術に任せたり、リモートワークだけに移行することは困難です。人にしかできない仕事が残るのが医療・介護現場ですので全ての業務をリモートワーク、またロボットなどのICT技術で行おうとするのではなく、必要に応じて使い分けることが大切だと思います。

医療・介護現場の未来とは?

今回のCOVID-19は医療・介護現場においても大きな教訓を残しました。それは人が人のために直接行う医療介護現場で医療従事者である人がいなくなると、医療崩壊が起きるということです。

これまでにも大規模災害としてこの5年間だけでもたくさんの地震がありました。この時の被災地の医療現場はとてつもない過酷な状況が続き、病院で寝泊りしながら昼夜問わず運ばれてくる被災者・患者の対応に何日も何日も、自分の家族が無事かもわからないまま対応にあたったスタッフもいたようです。

これらのことを聞いたことがある方も中にはいらっしゃると思いますが、どこか他人事ではなかったでしょうか?「大変だなー」と思うだけで。

今回のCOVID-19がこれまでの大規模災害と違うところは、全国の医療・介護現場で同時期に同様のことが起こったということです。これはこれで大変なことでしたが、逆に言えばチャンスです。

今後は日本の総人口はどんどん急速に減少していきます。その少ない人口の中で一体どれだけの人が医療・介護現場で働いてくれるのでしょうか。

人手の少ない現場でより質の高い医療を展開するためにも、そしてCOVID-19の様な感染症に対して適切に対応ができるようにするためにもICT技術を活用すること、リモートワークの可能性を探し構築することはこれから必要不可欠になると思います。

ここで忘れてはいけないのがICT技術を活用することで業務負担が軽減した分、人がなすべきこと、人にしかできないケア、本当の医療の質について再考しながら医療の未来を形にしていくべきだということです。

理学療法士の働き方 リモートワークは出来るのか?

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